平成二十六年(2014)四月一日、娘と桜を見ようと、 桜の名所の千鳥ケ淵に行くことになった。
◎ 靖国神社
東西線の九段下駅で降り、九段坂を上る。
「 昭和50年まで九段上のトヨタビルに勤務し、
西船橋から通っていたので、懐かしさはひとしおである。
当時、右側に日本不動産銀行があり、友人が務めていた。
車も飛ぶように売れたバブルが終わるころであったが、
その後もしばらくは日本経済は順調であった。
その後、メインバンクは次から次にとつぶれて、不動産銀行も例外でなかった。 」
左側の千鳥ケ淵への入口は混雑していた。
九段上にあるのは靖国神社である。
「 東京の桜の開花を決めるのは靖国神社にある一本の桜である。
気象庁からは離れているので、もっと近くの皇居などの桜でよいと思うのだが、
決まった経緯は知らない。
係官がこの木に数粒の桜のつぼみが開花しているのを確認すると、東京の開花宣言を
行う。
その様子はテレビで紹介される。 」
靖国神社に入ると花見客でいっぱいだった。
開花宣言をする桜はどれかなど確認するどころか、桜を愛でる雰囲気から遠い。
すぐに反対側から出て、トヨタ九段ビル前まで行く。
「 トヨタ自動車販売が建てたビルで、 妻と出逢ったのもこのビルで懐かしさはあったが、 今は合併しトヨタ自動車となり、水道橋に合流していて、 ここにはトヨタホームが入っていた。 」
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◎ 千鳥ヶ淵
千鳥ヶ淵に行くと写真もとれないほど遊歩道は込んでいた。
「 亡くなった妻は義姉と甥を会社帰りに千鳥ヶ淵に案内したが、
幼稚園児だった甥が人が多くてうれしかったのか、
大声で歌謡曲を歌ったので、独身の妻は恥ずかしかった、
と言っていたのを思い出した。
東京生まれの妻は「桜」というと「千鳥ヶ淵」という位、
ここの桜を自慢していた。 」
東北にはシダレ桜の古木があり、見事だが、
染井吉野では千鳥ヶ淵の桜が日本一と小生も思う。
眼下ではボートを漕ぐカップルが楽しそうである。
娘が「お母さんを連れてきてあげたかったね!!」といった。
結婚し一度は西船橋に住んだが、転勤で名古屋に行き、四十年以上愛知県で暮らした。
病を得て、東京に戻りたいという希望から愛知の家を処分して、船橋に新居を構えた。
引越し作業と入居作業が一段落して、さあ東京の好きなところに行けると思った時に妻が倒れて、この世を去った。
千鳥ヶ淵の桜をもう一度見せたいという希望が果たせなかった無念が心によぎり、
気がつくと頬に涙が流れ落ちていた。
二度のない若い日の思い出と募る妻への追慕・・・
小生にとって、千鳥ヶ淵の桜は他所で見る桜と違うものなのである。
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