1.関東圏の言葉は、大きく二つ、南関東グループと北関東グループに分けられます。
専門的には、前者を西関東方言、後者を東関東方言というようです。
南関東グループは、南関東(埼玉、千葉、神奈川)に群馬、そして、栃木の一部が属する言語圏です。
北関東グループに属すのは、栃木と茨城です。
栃木県の一部、足利、田沼と佐野地方が南関東グループに属しますが、歴史的に群馬と同じ両毛地区に属していたので、同じ言語圏を形成していても不思議ではないとおもいます。
2.江戸の言葉、現在の東京弁は、埼玉や千葉などの人々が江戸で働く、或いは野菜などを売りにくるなどを通して形成されていったようです。
さらに、明治政府は、京都、高知、鹿児島などの志士を政府の要人に迎えましたし、全国各地から人がどんどん集まってきて、各地の言葉が混じり合い、今日の標準語になっていきました。
研究者のK氏は、「 東京方言は色々な方言の要素が混じりあった、おもしろい方言です。 もともと関東には敬語があまり発達していなかったのですが、東京弁には敬語が発達しています。
また、東京以外の関東だと、意志や推量などを表す「べ・ぺ」がいまだに使われているところが多いのに、東京では使われません。
これらは、関西方言などの影響でこうなったと考えられています。 」 と述べておられます。
3.北関東グループ(栃木、群馬)が属するのが東関東方言で、最大の特徴はズーズー弁です。
K氏は、「 東京から東北本線(宇都宮線)や常磐線に乗って北上すると、利根川を越えたあたりから、乗り降りする人たちの言葉に独特の訛が聞かれるようになります。
東北本線の場合、利根川を越えるとまずは茨城県の古河市に入り、そのあと栃木県の野木町へと向かいますが、この周辺から言葉はズーズー弁的な特徴を帯びてきます。
また、このあたりは、敬語の発達していない無敬語地帯として有名です。
お年寄りの言葉を聞くと、目上に対しても目下に対しても同じ言葉で話すし、また、男も女も同じ言葉を使っています。
。」 と、言語圏の境界と理由を説明しておられます。
金田一博士は、北関東グループを栃木と茨城に限定せず、福島や宮城を入れて分類されていますが、同感です。 栃木県北部と福島県そして宮城県はことばやアクセントがかなり似通っています。
4.栃木県の言葉は、県北部と宇都宮そして足利ではかなりの違いがあります。
足利や佐野、田沼の両毛地帯といわれる処は群馬県と、真岡などの東部は茨城県、そして、北部の那須や大田原地区は福島県に接します。
K氏は、「 栃木県内には大きな方言境界が通っているのです。
だから、同じ栃木県の言葉と言っても、たとえば宇都宮市あたりの言葉は、同じ県内の足利(佐野・田沼の一部を含む)付近の言葉よりもむしろ県外の茨城県の言葉のほうによく似ているということもあり得ます。
足利の方言は群馬や埼玉の方言と同様、アクセントの区別があること、「イ」と「エ」の混同がないことなどに由来しています。
つまり両毛地帯といわれる県西南部の言葉は「ズーズー弁ではない」 のです。
発音だけでなく、言い回しや語彙なども、群馬の桐生弁などと同じ「〜だがね」という表現をよく使います。 」
と、区別を説明しておられます。
私は、これらは歴史的遺産であると思っています。
即ち、両毛地区は明治までは一つの区分だったのですが、栃木県と宇都宮県が統合された時、栃木県だった館林や桐生そして大田などが群馬県に編入されたのです。
また、県東部の馬頭や茂木などは水戸藩領だったのですが、明治に栃木県に編入されたのです。
栃木弁には他の言語と異なる特徴がいくつかあります。
1.アクセントによる単語の区別がない。
橋と箸と端は、標準語や他の方言ではアクセント(ピッチ・アクセント)で区別されますが、栃木弁では区別しません。
「雨」と「飴」、 「乞食」と「古事記」 なども同様です。
2.尻上がり調のイントネーションを多用します。
特に疑問文ではそれが激しく、 「 オメー、ドーシテコンナコトシテンダ〜 」 (お前、どうしてこんなことしているのだ?)
「 デーコンタベテーンダキットモ、カッテキテクレッケ? 」 (大根を食べたいんだけれども、買ってきてくれる?)
などは、だらだらーと上がっていく尻上がり調のイントネーションを使います。
また、問い返しや確認の疑問文では 、最後の1文字の部分を急激に下げるイントネーションが使われます。
「アシタ、行クベ」(明日行こう)に対して、「明日?」と聞き返すとき、「アシタ」の「タ」のところを上から下へと急激に下げます。
「コレ、食ベテイー?」(これ、食べていい?)でも、最後の「イー」を急激に下降させます。
これらは他の地域の人には肯定文に聞こえてしまうことが多いようです。
3.共通語の「アイ」 「オイ」 「アエ」 が 「エー」 になることが多い。
これは東京弁と同じです。
たとえば、「シラネー」(知らない)、「オセーナヤー」(遅いなあ)、「ケーッタ」(帰った)など。
また、共通語の「アウ」が「アー」になります。
これは東京弁と異なる点です。たとえば、「ミッチャーンダ」(見てしまうんだ)など。
4.「ッチャウ」「ッカラ」など、自立語と付属語の間に「小さいツ」が入ることが多い。
「タベッチッタヨ」(食べちゃったよ)、「タベネーッチッタ」(食べないでいてしまった)、「キョーッカラ」(今日から)など。
5.共通語の「イ段」と「エ段」に相当する発音の区別が曖昧です。
また、「ウ段」の音も、かなり「イ段」の音に近くなることがあります(中舌化)。
スズメバチ → スズミバチ
まいり(参り) → まえり
また、「ユ」や「ュ」が「イ段・エ段」に合流してしまうこともよくあります。
「雪」を「エキ」、「授業」も「ジギョウ」と発音する人が多いです。
「チョージ」(長寿、弔辞)。
6.共通語の「タ行(チャ行)」と「カ行」が、語中で「ダ行(ジャ行)」「ガ行[g](鼻濁音ではないガ行)」になります。
「ハダゲ」(畑)、「イグ」(行く)など。
栃木訛りは北へ行けば行くほど、あるいは東へ行けば行くほど強くなります。
栃木弁を直そうとしてもなかなかなまりが取れません。専門家の説明では
『 栃木出身の人がよく「訛りがとれない」と言われるのは、栃木弁に元来アクセントの区別がなく、ないところからアクセントの区別を作り上げるのが大変だからだと思います。
近畿系の方言などには、共通語以上に複雑なアクセントの体系があり、極端にいえば、共通語でしゃべるときには自分の方言のアクセント体系を共通語のアクセント体系に転換すればよいので、アクセントの区別のない地域の人よりは共通語をしゃべるのが楽なのでしょう。 』 と
と述べておられます。
すなわち、 「 無アクセントがなまりをなくすことへの障害になっている。 」 といえそうです。
私などもそうなんですが、小さい時から、最初を高くするほうが「雨」で、後ろを高くするほうが「飴」であるとアクセントも違いを教えられていませんので、認識がないだけの話ですが、それを話してみろといわれますと、混乱してしまいますね。
最近、栃木県にも他地域からの流入者が増え、またテレビ・ラジオの影響とも相俟って、都市部や県の南部では共通語化がけっこう進んでいます。 それにもかかわらず、栃木弁の特徴はいまだに若い世代にも根強く残っています。特に1(無アクセント)と2(尻上がりイントネーション)は、栃木弁の最大の特徴だと言えます。
立松和平(死亡)、船村徹、渡辺貞夫、ガッツ石松etc.の東京に居住している有名人のことばが訛って聞こえるのも、同じ理由や原因からです。
また、中舌利用と鼻濁音は、五十代以上の比較的年輩の人たちに見られる特徴だそうです。
栃木弁の「ズーズー弁」的特徴は、このあたりからでてくるのかも知れません。
「ガ」と「カ゜(ガ行鼻濁音)」の発音について、私は区別するのが当然と思っていました。
栃木弁には、ガ以外にガ行鼻濁音があり、それがいまでも色濃く残っています(特に北部や東部地区)
これの違いで意味を区別します。
例えば、「オオガラス」と発音すると「大きいガラス」の意味で、「オオカ゜ラス」と発音すると「大きいカラス(烏)」の意味になります。
そういえば、私は小学二年のとき、広島地方から引っ越してきましたが、学校の先生に、カ゜(ガ行鼻濁音ーぐあ)を使うよう指導を受けたのを思い出しました。今考えればそのままにしていたら、今の栃木なまりを経験せずにすんだのでしたが・・・・・
栃 木 弁 | 標 準 語 |
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あさっぱら いじがやける うるかす おきむくれ おちゃっぺ おひゃらかす おろぬく がさやぶ がめる くっちゃす ごじゃっぺ こわい だまかす つんだす ですっぱぎ でんながる とうぎみ はばったい ひっぱり ふすくれる ふっかけ へでなし ほろかす むすぐる やっかむ やっこい やっこら よじる わけはない | 朝早く 腹が立つ 水にふやかす 起き抜け おしゃべり ひやかす 間引く 藪 搾取する かみつぶす 辻褄の合わぬこと 疲れる だます 驚かす 突き出す 出好き 転ぶ とうもろこし はれぼったい 縁続き すねる 驟雨 たわごと ゆり動かす くすぐる 嫉む やわらかい どうにか ねじる 容易、簡単 |